シリーズ8で思い出しましたが、しばらく前に廃盤になっちゃってるんですよね。実は。

先日、スペックを確認したくてシチズンさんのホームページ見たんです。が、消えてしまっていて。ちょっと前まではシリーズ8の製品ページあったんですが、ページが見つかりません、っつってる。

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歴代モデル検索(シチズンのキセキ)の方にもありません。
 
つまり、シリーズ8、その痕跡すら残っていないのです。

まるで、事件を起こした芸能人のフェイスブックやツイッターやミクシィがコソッと閉鎖されちゃうみたいに。まるで、タイムマシンで過去に行った誰かに歴史を改変されたみたいに。シリーズ8、このまま闇に葬られてしまうのかしら。そんなの、あんまりやん…!

ということで、このまま歴史に埋もれるにまかせるのはあまりに惜しい。いつかシリーズ8が再評価される日のために、ここに記録を残しておくことにします。たとえ、このブログ自体が日の目を見ることはないとしても!

  1. シチズン シリーズ8とは
  2. 特徴
  3. 製品ラインナップ
  4. 何故シリーズ8は終焉を迎えたのか
  5. おまけ

1. シチズン シリーズ8とは

(1)ブランドコンセプト

2008年のブランド立ち上げ時に掲げていたブランドコンセプトは、「モダン コンフォータブル デザイン ウォッチ」
新商品「CITIZEN Series 8」のプロダクトコンセプトは「モダン コンフォータブル デザイン ウオッチ」。様々な異文化と個性を受け入れた街の結晶体である東京から発信するという意味で「モダン」であり、エコドライブ機能によって光のある限り動き続けるという「コンフォータブル(快適さ)」を約束するという。

のっけからシチズンさん独特な言葉の定義が散りばめられています。「東京から発信するという意味でモダン」。
僕らの頭上にいくつものクエスチョンマークを投げかけてくれた後、シチズンさんは続けます。モダンとは何か、と。
Modern(モダン)とは、東京発信。東京は様々な異文化と個性を受け入れた街の結晶体です。東京を構成している「パーツ」はモダンであり、ファッショナブルでもあり、こだわりでもある。

そして、805を発表した2010年頃には、ブランドコンセプトも進化を遂げました。有名なキャッチコピー、「ステイタスよりスタイル。ラグジュアリーではなくスマート。」の登場です。
「ステイタスよりスタイル。ラグジュアリーではなくスマート。」をブランドコンセプトにシチズンが目指す時計の新しい価値観をカタチにしたウオッチ。

このコンセプトを受けて、どういうことや!さっぱり意味がわからん!、とざわついたようです。

「○○より△△」という言い回し、よく耳にしますよね。ナンバーワンよりオンリーワン、とか。花より団子、とか。基本的には相反する2つの物事を並べて、一般的にはこっちかもしれないけれどもそっちの方が良い、と価値観の違いを浮き彫りにする力強い表現手法です。

で、僕なりにちょっと考えたんですけど。シチズンさんは、ステイタスとスタイルという、両立可能なコンセプトを並べてあたかも対立しているかのように述べています。だから僕らの脳みそが混乱したのでしょう。

じゃあ、なんでそんなことをシチズンさんはやったのか。僕が想像するに、シチズンさんは僕らを試したんです。

どっちかを選ぶなんて無理〜ステイタス且つスタイリッシュ、いいじゃないの!、と。ラグジュアリー且つスマート、いいじゃないの!、と。それがシリーズ8じゃん、と。僕らがその新しい結論に辿り着くのを待っていたのでしょう。

その後、808リリースではなんだかトーンダウン。
シチズンが目指す時計の新しい価値観を持つシリーズ。
出典:https://citizen.jp/news/2014/20140703.html

こんだけ。なんだろう。シチズンの目指す時計の新しい価値観が何なのか、はっきり言っていただきたかった。恥ずかしくなっちゃったのかしら。
(2) ターゲット

シリーズ8がターゲットとしていたのは、30代男性。そう、スマホの前のあなたたちです!

まあ、1番安い801でも発売時の定価が17万8500円と高価。ものによってはザ・シチズンより高い。かなり懐に余裕がないと手が出せないですね。
コアターゲットは、自分らしいスタイルと心地よさを求める30代男性。

ちなみに、シリーズ8のイメージキャラクターは福山雅治。キャッチフレーズは「一瞬を生きる君へ」。かあっこいい

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この、島田市☆村松時計店さんという方のブログにポスターの写真が残されていました。素晴らしい。そして、つのだ☆ひろ以外で名前に☆が入っている方、初めて見たかもしれない。


また、発売時には、「都会の一瞬を生き抜く男」を表現するためにリリフランキーが福山雅治の24時間に密着して自宅でのオフショットも含めた同氏の1時間毎の写真を撮り、その写真がドーンと広告に使われたそうです。

http://moeroidol.blogspot.com/2008/11/24.html?m=1

広告の結果、世の中の女性陣がより雅治氏にメロメロになったということです。きっと、雅治氏の顔面ばかりが視線を集め、腕元には誰も目を向けてくれなかったのでしょう。


(3)歴史

2008年に第1弾として801、802、803が同時に発売。
その後、2009年には804がラインナップに入りました。代わりに802と803は廃盤になったようです。

2010年805、2012年806、2013年807と立て続けに新モデルが投入。
2014年にはシリーズ最強の防水性能を持つ808が発売されました。

しかしながら、808が最後のモデルになってしまうのです。

シリーズ8終了の旨は公式発表が出されたわけではないようなので、正確な時期は分かりません。
が、さる筋から得られた情報によると、2018年6月頃にシチズン公式ホームページからシリーズ8は姿を消してしまったと言いますので、おそらく2017年末か2018年初と推測できます。


2. 特徴

(1)デザイン
東京の近代建築を意識してデザインしたケース。
引き算の美意識から生まれたシンプルでモダンなフォルム。

(2)8体構造
一般的に、腕時計のケースは3〜4つのパーツで構成されます。対して、シリーズ8は8ピース構造。

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シリーズエイトの特徴である、「8体構造」のケースは、全てのパーツをひとつひとつ丁寧に磨きあげ、そして、細部にまでこだわりながら理想のラインを追及し、パーツを組み立てています。

8つのパーツ全てに、熟練の職人が手作業で仕上げたザラツ研磨を施しているので、一般的には磨けないようなところなも磨きが入っているそうです。

僕の理解では、例えば普通はケースとラグが一体で鋳造されるので、ケースからラグにかけての繋ぎ目の部分は磨きにくい。それが別パーツにすることで、これまで手が届かなかった隅っこの方まで磨けちゃう、ということのようです。

3. 製品ラインナップ

以下の8種類を展開していました。

2008年 801

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  • ケース径: 43mm
  • ケース厚み: 11mm
  • 防水: 10気圧
  • 主な機能: 

802

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  • ケース径: 43.7mm
  • ケース厚み:
  • 防水:10気圧
  • 主な機能:クロノグラフ

803

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  • ケース径:45mm
  • ケース厚み:
  • 防水:10気圧
  • 主な機能: ビッグデイト、クロノグラフ

2009年 804

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  • ケース径:45.8mm
  • ケース厚み:13.1mm
  • 防水:10気圧
  • 主な機能:ワールドタイム、クロノグラフ

2010年 805

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  • ケース径: 41mm
  • ケース厚み:9.35mm
  • 防水:10気圧
  • 主な機能:

2012年 806 

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  • ケース径: 42.3mm
  • ケース厚み:9.4mm
  • 防水:10気圧
  • 主な機能: ワールドタイム

2013年 807

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  • ケース径:43.6mm
  • ケース厚み:9.6mm
  • 防水:10気圧
  • 主な機能:ワールドタイム、クロノグラフ

2014年 808

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  • ケース径: 45.4mm
  • ケース厚み: 13.8mm
  • 防水: 20気圧
  • 主な機能:

こうやって並べてみると、シリーズ8の進化の様子が分かりますね。デカい厚いと批判されていたケースは徐々に薄く。パーツが分かれていることがサイズの制約になったはずで、それを薄くするのはシチズンさんが弛まぬ努力を重ねた証左でしょう。

そろそろ息切れしてきたので、スペックの説明がスカスカですいません。いずれ追記します。
なお、写真はシチズンさんのカタログ画像を残しておられたブログからお借りしました。


4. なぜシリーズ8は終焉を迎えたのか

前述の通り、シリーズ8が姿を消したのは、2017年末か2018年初と推測されます。

では、何故この時期にシリーズ8はひっそりと終焉を迎えなければならなかったのか。

僕は、2016年5月のフレデリック・コンスタント買収以前から、そのトリガーは引かれていた、撃鉄は起こされていたのだと睨んでいます。

以下は2016年2月にシチズンが発表した、中期経営計画「2018グローバルプラン」後期のプレゼン。

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既に、2016年2月の時点で、高価格帯はカンパノラ、ザ・シチズン、そしてまだM &Aによって獲得する他ブランドを要とする方針が打ち出されています。

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続いて、2018年5月にシチズンさんが実施した、2018グローバルプラン振り返りのスライド。


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要するに高価格帯は、カンパノラ、ザ・シチズン、フレデリック・コンスタント、アルピナで分けていこうね、と。

確かに、これら4つはテイストが異なり、競合しないでしょう。

対して、シリーズ8がターゲットとしていたのはスタイルに拘りを持つ30代男性。これは、フレデリック・コンスタントの顧客層と重複しています。だからシリーズ8を切った。一見、マーケティング戦略としては、教科書的で妥当な判断にみえます。

が、本当にその判断は正しかったのでしょうか? 

僕の想像ですが、シリーズ8のターゲットはスタイリッシュな30代男性」だったかもしれないけれど、実際に喜んで買っていた層は、「ひねくれた30〜40代男性」、なんです。
もともとフレデリック・コンスタントを購入するなんて頭の片隅にもないような、そういう層。その辺の天邪鬼な方々が、グランドセイコーあたりと見比べてシリーズ8の質感の高さを評価し、買っていたんです。だから、たぶん競合しない。

フレデリック・コンスタントよりシリーズ8。そんな新しい価値観があっても良いんじゃないでしょうか。


5. おまけ

シチズンさんの公式ホームページからは、完全に存在を消されてしまった感がありますが、あれこれ検索ワードを変えると、まだいくつかヒットします。その中でひとつ。

「807をご購入のお客様へのお知らせ」(2015年1月22日)

腕時計でリコールなんかあるんですね。このプレスリリースによると、裏蓋が外れやすいのだと。
裏蓋は外れるようにできてるんだから多少外れやすくたって構わないんじゃないかな、エアバッグじゃないんだから大丈夫じゃないかな、と思った方。素人ゆえの浅はかさ。僕かな?

品質に一切の妥協を許さないシチズンさんですから。真正直に発表したのです。その愚直なまでの生真面目さを表わすエピソードとして、後世に語り継がれるべきでしょう。