アストロンだのオシアナスだの、わかりやすくカッコいいですよね。スポーツ選手が広告塔になって新聞なんかでも目にする機会も多いから、若者たる皆様のハートに刺さっていることでしょう。でも、なんというかその、わたくし個人的にはそんなにお勧めしません。

理由はいくつかあるんですけど、あのへん要するに電子機器でしょ、どんどん進歩する。素晴らしいことではあるけれども、えー去年買ったのにもう新製品が出ていてしかもお値段据え置きで性能が上がってらあ……、って、悔しいじゃないですか。まあ、10〜20年は普通に壊れないし、コスパ的な面では問題ないでしょう。むしろ良い選択になるかもしれない。二次電池は10年もしたらへたってくるから一度くらいは交換必要。その交換はおそらく街の時計屋では対応できず、メーカーでやってもらう必要はあるから数万円の出費は出るでしょうけど、よほど手荒く扱わない限りそれ以外はノーメンテでいけると思います。

というか時計を手ひどく扱うあらくれ者みたいな方にはGショック以外の選択肢はないです。おまえらGショックがあって良かったな！

おっと話が横道にそれました。GPSソーラーの話に戻しますと、一生モノにはなり得ないことをお忘れなきよう。機械の修理が街の時計屋ではできないし、製造終了後から10年でメーカーにも部品なくなり、以降はメーカーも修理してくれなくなります。30年以上の社会人生活通じて使おうとすると厳しいのでは。え？資産形成してFIREするから30年も40年も働くつもりはない？そうですか……

2. 表面コーティングは万能ではない

セイコーのダイヤシールド、シチズンのデュラテクトなど、傷が付きにくいように高級ラインは特殊な表面コーティングがされています。これ注意が必要。
傷が付きにくいんだけど、傷が入らないわけではない。で、いざ傷が入ったときにはコーティングが邪魔で研磨できない。ゆえに見た目がボロボロになります。

よく言いますよね、傷付きたくないばかりに他人を寄せ付けないように強固な壁を張り巡らせているタイプほど脆い、と。それです。それですじゃねえな。

3. サファイアガラスは名前ほどじゃない

風防ガラス形状が特殊なものもやめといた方がいいです。例えばほら、ハミルトンのベンチュラなど三角形のもの、円形じゃなくてガラスが菱形だったり六角形とか八角形とか凝っているもの。それから、ガラスは円形でもカットガラスなんかも。今日びメーカーさんは部品を街の時計屋に卸さなくなっているので、メーカーでしか交換できないことが多いです。

これは肝に銘じて欲しいんですけど、ガラスって、結構あっさりと傷が入りますよ。酔っ払って転んだり、酔っ払って大手を振って歩いて壁にガリっとやったり、自動ドアが開き切る前に滑り込んでカツンとやったり。アルハラって声をあげるから酔っ払うまで飲まないので大丈夫です〜、ではありません。酔っ払ってなくても時計にそんなに思い入れを持たない人って扱いが雑だから、何度だって着脱時に落下させます。あと洗濯機に入れたりする。ズボンのポケットに入れたままパキッと座ったりもする。ソースはウチのヨメさん。

高品質の代名詞みたいに使われるサファイアガラスは傷が入りにくいんだけど、決して傷が入らないというわけではない。そしていざ傷が入ると研磨で消せないから、ガラスごと交換するしかない。なので、汎用品でガラスごと交換できるスタンダードな円形のが良いです。1本目にハミルトンのベンチュラとかやめたまえ。

ただまあ、円形だからと言って汎用品かどうかなんか分かんないんですよね。ガラスの直径や厚みなど分かりっこない。後はあなたの神に祈ってください。

3. ムーブメントにもすこしだけ気を配ろう

新興メーカーで中華ムーブメントを載せているものも増えていますよね。そりゃあコストを抑えて外装に力を入れているのでカッコいい。お値段以上。ただ、メンテナンスが課題になる。新興メーカーはメーカー自体が無くなっちゃったり、日本の代理店が取扱いをやめちゃうとメンテナンス出来なくなっちゃうリスクあります。そうすると、中華ムーブメントを修理してくれる時計屋さんを探さないといけない。たぶんあんまりありません。ロシアムーブを載せているのも同様の理由でおすすめはしません。

壊れたらポイっと捨てるからええんや、という山賊のお頭みたいな精神性の方は、どうぞそのままで。

4. メッキは剥がれるものである

たぶん若者は興味持たないと思いますけど、ステンレスとゴールドを組み合わせた、所謂コンビもやめといたほうが良いと思います。

もちろんホンモノの金だったら関係ないんだけど、ゴールドカラーメッキだと使っているうちに必ずメッキ部分がすれて下地が出てきます。古くからの言い伝えとおり、かならずメッキは剥がれるものなのだよ。キミが就職活動期間にまとったそれも、4月も半ばを過ぎてそろそろ剥がれてきているかもしれませんな。はっはっは。

コンビに限りませんが、メッキが剥がれるとまあどうでしょう、かなーりみすぼらしくなります。再メッキという手はありますので、全体がメッキならまだ再生できる。ただ、ステンレスとのコンビは再メッキしてくれる時計屋さんが見つかりにくいはずです。

腕時計本体とベルトを繋ぐ部分であるラグ。ここの形状が特殊なのもやめといた方が無難です。おしゃれなラグジュアリースポーツと呼ばれるような高級時計やファッションブランドのカジュアルな時計ではベルトが時計本体と一体化するような形状にデザインされているものがあってカッコいい。

が、専用ベルトしか使えないと、交換が純正品のみとかオーダーメイドになります。一本目だと毎日同じのを使うことになるので、革ベルトの劣化は早いですよ。そのクタクタで千切れかけて臭いベルトで合コンとか行くのですか。

6. デジタルとアナログの良いとこどり、デジアナ。

僕は好きでたくさん持っているんだけど、デジアナも覚悟がいります。液晶がダメになった時にはメーカー送りでばーんと交換してもらうしかない。メーカー送りだと高いから、しょうがない…捨てるか…、となっちゃう。あ、でも中の機械が汎用機なら丸ごと交換も可能かもしれないので、捨てるなら僕にください。

なお、ブライトリングの誇るデジアナ・エアロスペースを複数愛用している僕は、いずれ訪れる故障の日に震えています。

7. プロフェッショナルに惑わされるな

腕時計の売り文句で、300m防水とか500m防水とか、プロフェッショナルなダイバー用途に耐えられる、というのはよく見かけます。くすぐられますよね。防水性はそりゃあ高ければ高いほどいいのだけど、防水性が高いからって温泉とかサウナに着けたまま入っていいってことじゃないからね！

それから、本気のやつだと街の時計屋では電池交換や修理できないことあるので注意してください。防水検査もしないといけないからメーカー送りになります、と。

あと、防水性能を担保するために大概ねじ込み式竜頭になっているけど、これも要注意。ねじ山がなくなると竜頭のチューブごと交換になる。部品がないと修理不可に。

僕はあんまりねじ込み竜頭を開け閉めしない方が良いと思っているので、クオーツでねじ込み竜頭のものは日付がずれててもそのままにしてます。

8. クロノグラフには覚悟が必要

クロノグラフ。針がたくさんあってめちゃくちゃカッコいい。時計界に咲く大輪の華とはクロノグラフのことであります。

ではあるんだけど、最初の一本目としてはおすすめしづらい。なんせメンテナンス費用が3針と比べるとだいぶ艶やかになっちゃうわけです。機械式クロノグラフと機械式3針のオーバーホール代は数万円違うもんね。だいたい時計のことよく知らないひとはプッシュボタンを押しちゃってクロノ秒針が動かしっぱなしになってるでしょ。そしたら摩耗も早いからさ。

なにより、酔っ払って転んだりぶつけたりしてプッシュボタンを紛失する人が結構います。長く使っているとプッシュボタンが緩んでくるので、酔っ払っていなくても注意が必要。

9. じゃあ要するになに買ったらいいんだ？偉そうにあれもダメこれもダメばかり言ってさ、なんなんだよ！ケチばかりつけて対案を出さない老害め！

ひとことで申し上げますと、

機構が特殊でない汎用機械(=機械式でもクオーツでもいいです)が載せられた、特殊コーティングされていないステンレススチールあるいはチタンでできたラウンドケースの時計。

これに尽きます。全然ひとことじゃねえな…。10年20年なんなら社会人生活の間ずっと使うくらいの気持ちで時計を探しているのであれば、というのが前提ですけど。そうじゃないならなんでも気に入ったものをどうぞ。どのくらい長く使えるかはあなたの神に祈ってください。

大事なのは、街の時計屋さんでもメンテナンスができることだと思います。買ったお店に持ち込むのが一番安心ですけど、転勤やらなんやらでそうもいかないこともあるので、どこの時計屋さんでも扱えるというのが長く使えるものになるかどうかの基準だと思います。その時計屋さんが廃業しない保証もないしね！ねえアルキメデススパイラルさんよ…

中の機械がETAとかセリタとかミヨタやらセイコーインスツルメンツあたりの汎用品なら街の時計屋で部品調達してもらえる。古くなって新品の部品が手に入らなくなっても、普及ムーブメントなら同じ機械が搭載された時計をオークションなどで確保して機械ごと入れ替えてもらうなんてのも可能。

で、時計屋さんで対応できない場合にはメーカー側に部品が長いこと置いてあって修理してくれるとなお安心。ロレックスはモデルチェンジしても大きく変わらないし部品も共通なのが多いのでだいたい大丈夫。IWCやパテックは永久に修理を受け付けてくれる。まあ、その辺は初任給で手が届く対象から外れますので、ボーナスが入ってからじっくり考えましょうね。